余所者-よそもの-【 2 】
「ドリンクは決まっていますか?」
「いえ」
「では、決まったら声をかけてください」
私は女性の座るカウンター席の前に立ち、グラスを磨きながらオーダーを待った。
しかし、なかなかドリンクが決まらない。
ページの上から下までを目で辿り、裏返す。
また裏面の上から下までを目で辿り、表に返す。
それをもう、三度も繰り返していた。
そろそろこちらから声をかけようか、と思った矢先。
やっと女性が手を上げる。
「お決まりですか?」
尋ねると、メニューを指さした。
「ネグローニですね」
女性が注文したのは、真っ赤な色をしたカクテルだった。
アルコール度数はそこそこある。
てっきりお酒に詳しくないのかと思っていたけれど。
意外と飲み慣れているのかもしれない。
ドリンクを作り、敷いたコースターの上にコト、と置いた。
女性はそっと両手で慎重にロックグラスを持つと、少しだけ口に含み、グラスを戻す。
一人客なら、たいていスマホを触るか、静かに本を開く。
けれど彼女は、そのどちらでもなかった。
ただただ手持無沙汰になってぼうっとしていた。
少し声をかけてみよう。