余所者-よそもの-【 2 】
64話:不可逆
地下の売人はひとしきり殴り倒すと、ユキの髪を鷲掴みにして、その顔を強引に上向かせた。
痛めつけられ、血を滲ませたその顔が、どこか妖艶に映る。
ユキの吸い込まれそうなほど純粋で綺麗な瞳は、
『オマエを殺す』と言っていた。
地下の売人はそれを見つめ、ゾクゾクとうなじが震える。
「そんな目で見るなよ。……殺したくなる」
「………」
地下の売人は少しの間、凶暴な本能と戦う。
やがてフルフルと首を横に振ると、ニッコリと邪気なく笑った。
「とびっきり嫌なことがあったら。ちゃあんと、いいことが起きるんだよ」
ユキの髪を掴んだまま、ズルズルと前進する。
――そうして、カナコの横たわるビリヤード台の前へと辿り着いた。
「君たちをここから帰そう」
地下の売人がパッと手を放す。
「お前の身体、まだ動くよね?」
「………」
「ちょっと殴りすぎちゃったかな?」
ユキはその場にスク、と立ち上がり、カナコを見下ろした。
その瞳は、一度も揺れなかった。