余所者-よそもの-【 2 】
だけど、私がその名前を口にした瞬間。
私を包んでいた腕の力はじわじわと弱まっていった。
片腕はすとん、と私の背中から落ちて、もう片腕は私の髪を少し名残惜しそうに撫でて。
やがて私たちの間には距離ができた。
シドは自分のチェアに深く座り直しながら、頭をガシガシと掻いて、抱えた。
落ち着かない様子の彼の顔を横から覗き込めば、その表情に動揺が浮かんでいる。
やっとのことで、重そうな口が開いた。
「カエデは……女。俺の」
「うん」
「病気だ」
「……病気?」
「心の病気。ここ二年は施設に入ってる」
私は「そう」とだけ返した。
なんて言葉をかければいいのか、わからない。
ただ、カエデという彼女のことを話すシドの横顔が、とても辛そうで。
「もういいよ」と遮れば、シドの大きな手がカウンターの上の私の手をぎゅっと握った。
「昔、俺への報復に利用された。身も心も全部壊されちまった」
「………」
「だから……ダメなんだよ。お前が、俺のせいで誰かに傷つけられるのが」
「………」
それは、罪の意識だ。
シドが衝動的になったのも、今こうして謝るのも。
全部、カエデという彼女に対する後悔からくるもの。
自分に向けられたものじゃない。
不思議とそこに虚しさや悲しさは感じなかった。
ただ、ずっと抱えていた疑問が解けていく感覚だけがあった。