余所者-よそもの-【 2 】
「ナメやがって」
バンが私の胸倉を力任せに掴み上げた。
上手く力の入らない私の身体はあっさりと押し込まれ、背中からロッカーへと叩きつけられる。
その勢いで、スチール製の薄いロッカーがガタガタと大きく揺れた。
たちまち、――ガシャァァン!!と、けたたましい程の破壊音が更衣室に響き渡った。
それはロッカーの上に乱雑に詰まれていたストック用の段ボールが床に落下した音。
中に入っていたのは予備のタンブラーグラス。
セットでまとめて入っていたグラスが割れたのはもちろんのこと、落下の衝撃で段ボールの蓋が開き、凶器のようなガラス片がいくつか床に散った。
……踏むと危ない、怪我をする。
私は胸倉を掴まれたまま、バンの肩を強く押し退けた。
けれどバンはビクともしない。
むしろそれを攻撃と捉えてしまったようで、その目尻をキリキリと釣り上げた。
「テメェ……マジで今日は勘弁ならねぇ」
胸倉を掴む手はさらに絞り上げられ、私の身体は激しく前後に揺さぶられる。
「やめて!」
そう両手を突っ張れば、胸元のボタンの二つがぶちん、と鈍い音を立てて、勢いよく弾け飛んだ。
途端、開いたシャツに、胸元が大きくはだける。
「……な!」
バンは一度私の胸元に目をやるなり、あからさまに目を泳がせた。
その動揺を打ち消すように、突っ張っていた私の両手を跳ねのけようとデタラメに腕を振り回してきた。
「は、離せってめぇ……ッ」
「じゃあそっちが離してよ!」
「うるせぇッ!」
そうやって、もみ合いと混乱の末。
行方のわからなくなったバンの手が、ガッ、と私の鼻柱に綺麗にヒット。
「……っ」
痛みに顔を押さえると、そこでやっとバンが手を離した。
私の身体はそのままぐらりと前に倒れ込み、咄嗟に突いた手のひらに鋭い痛みが走った。
目を開ければ、視界一面に散ったガラス片が映る。
手の痛みの理由なんて、確認しなくてもわかる。
……やってしまった。
「………」
倒れたまま、動くことができない私の頭上。
はぁ、はぁ、と肩で息をするバンは呆然と立ち尽くした。
「……て、てめぇが離さねぇから悪りーんだ……」
そう言い訳をしながら、ロッカーから自分の着替えを取り出して、
「ウゼーから。今日は表でてくんな……」
と、捨て台詞を吐いてから更衣室を後にした。