余所者-よそもの-【 2 】

44話:紳士



私は自分の身体を引きずるように移動して、更衣室の扉を開けた。

視界に飛び込んできたのは、フロアの真ん中で仰向けになって倒れるバン。
そして、その上に馬乗りになってバンの胸倉を締め上げる、潤の姿。


「あのぐちゃぐちゃの部屋も、カナコちゃんの傷も。全部お前がやったんだな?」

「お前はなんも知らねぇだろうけどな。……アイツ、紫藤とデキてんだぞ!?」

「だからなんだ」

「お前はいいよな?あの尻軽女のせいで店がどんな目に遭っても、関係ねぇんだから」


潤の手に、さらに力が籠った。

バンは組み敷かれながら、それでも首を太くして負けじと怒鳴った。


「そーだろ!いってもお前もシトウの人間だもんな!?シトウでチャラチャラ女転がしてるだけのただのクソホストが。首突っ込んでくんじゃねーよ!」

「カナコちゃん傷つけて、お前は何がしたいんだ」

「不要なモンをこっからだすんだ!ゴミだ、ゴミ!あんな女!」


「……そうか。そのためにこうやって……」

――バキィ!と潤の拳がバンの頬にめり込んだ。


「女の顔面殴りつけて。こうやって……」

――ブチブチ!とバンの襟首にかけられた潤の両手が、バンの制服のボタンを全部割き飛ばした。


「ロクな抵抗も出来ない女を傷つけたのか?」

「………」


「弱いお前は、紫藤に敵わないから。だから自分より弱い女に手を上げたのか?」

「………」

「答えろッ!!……バン!!」


潤は再び胸倉を乱暴に掴み、息がかかるほどの距離でバンを怒鳴りつけ。


悔しそうに顔を歪めたバンをしばらくの間睨みつけると、ドサリ、とその手を放した。


「お前のこと、ガキだとは思ってたけど。クソの付くガキだったとはな」


バンはもう力なく横たわったまま、ただ天井を見つめていた。
フロアの照明を反射した瞳は、涙にうるんでいるように見えた。


< 97 / 181 >

この作品をシェア

pagetop