愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
 ザカリアスは未だに、エリシアの名を呼んでは「二人は愛し合っていた」と言い続けているらしい。現実を受け入れることができず、自らの妄想の中に閉じこもることにしたのかもしれない。

 貴族を襲うことは大罪とされており、ザカリアスは終身刑を言い渡された。公にはされなくても、公爵令息であるロジェリオの命を狙ったことが大きかったのだろう。この国には死刑制度がないため、彼は死ぬまで牢獄で過ごすことになる。

 エリシアやヴィクトルの身に起きた死に戻る現象が、ザカリアスにも起こるかどうかは分からない。それでも万が一死に戻って未来を変えられては困るという理由から、自ら命を絶つことがないようザカリアスには厳重な監視がつけられるという。



 アルベルダ公爵家に移り住んだエリシアは、部屋でゆっくりと本を読んでいた。うしろでエリシアの髪を丁寧に梳いているのは、侍女のダナだ。彼女は引き続きエリシア専属の侍女として、公爵家についてきてくれたのだ。

 公爵夫妻はエリシアを可愛がってくれるし、公爵家の使用人たちも皆エリシアを受け入れてくれている。それでも慣れない環境の中で、ダナの存在は心強いものだった。

「さぁ、そろそろおやすみになる時間ですよ」

 うしろから、ダナがそう声をかけてくる。微かに騒ぐ胸に気づかないふりをして、エリシアは読んでいた本を閉じた。

 就寝の挨拶をして下がっていくダナを見送り、エリシアは部屋の中にあるドアへ視線を向けた。そのドアの向こうは、夫婦の寝室だ。寝室を挟んだ反対側には、ロジェリオの私室がある。

 まだ結婚式を挙げたわけではないから、初夜というわけではない。だけど恐らく今夜、ロジェリオはエリシアを抱くつもりだろう。エリシアもそのつもりで、心の準備をしている。
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