愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
「爽やかですごく……っ、ぐ……ぁ」
 穏やかに話していたロジェリオの顔が、突然苦しげに歪む。がしゃん、と大きな音を立てて、彼の手からティーカップが滑り落ちた。繊細なカップは衝撃でひびが入ったのか、真っ白なテーブルクロスにじわじわと紅茶が広がっていく。
「ロジェリオ?」
 思わず立ち上がったエリシアの目の前で、ロジェリオは胸をかきむしった。その顔は見たことがないほどに青ざめており、苦しげに低く唸る唇から、ごぽりと真っ赤な血があふれ出る。
 背中を丸めた彼の身体は、ぐらりと床へと崩れ落ちた。脚がテーブルにぶつかった衝撃で、ティーカップが落下して砕け散る。
「どうしたの、ロジェリオ!? しっかりして……!」
 急いで膝をついたエリシアは、破片が膝に刺さって痛むのも構わず彼の身体を抱きかかえようとした。だが成人男性の体重を支えることは難しく、さらに彼はびくびくと痙攣するように全身を不自然に引き攣らせている。
「誰か、誰か来て……!」
 悲鳴をあげたエリシアは、使用人を呼ぶためのベルを探してテーブルの上に視線をさまよわせた。だがいつもそこにあるはずのベルが、今日は見当たらない。
 なんとか助けを呼ぼうと声を張り上げるものの、激しく降る雨が、まるで分厚いカーテンのようにエリシアの声を吸い込んでしまう。
「ロジェリオ、どうして……誰か……!」
「っ……シア、……どこ」
 ほとんど吐息だけの声で名を呼ばれて、エリシアは必死に彼の手を握りしめた。彼の目はうつろで、目の前にいるエリシアのことも見えていないようだ。
「リオ、ここよ。私はここにいるわ」
「あぁ……よかっ……。シア、愛して……」
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