愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた

死に戻った先で

 そして、エリシアはこの忌まわしい記憶を持ったまま、死に戻った。
 今のエリシアは、まだロジェリオと出会っていない。だから一番にすべきなのは、彼と出会わないようにすることだ。
 あの男は――犯人は、エリシアを望まぬ婚約者、つまりロジェリオから救い出すためだと言って毒を盛った。エリシアが婚約をしなければ、ロジェリオが殺されることはないはずだ。
 そしてもちろん、『エリシアと愛し合っていた』などというありえない勘違いを起こさせないために、弟のヴィクトルと執事のザカリアスとは距離を置かねばならない。
「……どっちだったのか、思い出せたらいいのに」
 額を押さえて考えるものの、頭の中に白い靄がかかったように思い出せない。
 最愛の人を失った悲しみと、信頼していた人物の裏切りに、エリシア自身も大きなショックを受けたせいなのだろう。
 
 身支度を終えたエリシアは、どくどくと激しく打つ鼓動を感じながら、ゆっくりと食堂へと向かっていた。
 ヴィクトルとザカリアスの顔を見れば、何か思い出すだろうか。こんなにも鼓動が速いのは、愛する人を殺した相手と対峙することへの恐怖なのだろうか。
 食堂には、すでに家族全員がそろっていた。仲睦まじい両親と、弟。そして、執事も隅に控えている。どうしても顔を見ることができなくて、エリシアは視線を下げたままうつむいた。
「お……はようございます」
 振り絞った声は、必死に平静を装ったものの微かに震えていた。両親には気づかれなかったようで、穏やかな返事が返ってくる。
 思い切って顔を上げると、すぐそばに弟と執事の姿があった。どちらもエリシアを見つめていて、それがたまらなく恐ろしい。
「……っ」
「姉さん?」
< 29 / 32 >

この作品をシェア

pagetop