愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
 一人きりになったベッドの上で、エリシアは何もはまっていない左手の薬指をじっと見つめる。そして、寝衣のボタンを外して胸元を確認した。
 肌には、うっすら傷跡が残っている。それは、破片を突き立てた場所だ。指先でなぞると、微かに肌が盛り上がっているのが分かった。こんな場所を傷つけた記憶は、ない。ついさっき、自ら命を断とうとした時以外には。
「この傷があるということは……あれは、夢じゃないわ」
 確信をもって、エリシアはつぶやく。
 どうしてこうなったのかは分からないが、エリシアは未来の記憶を持ったまま、およそ一年の時をさかのぼったらしい。
 来月に十九の誕生日を迎えるということは、まだロジェリオと出会っていない。エリシアが彼と出会ったのは、十九歳の誕生日の直後に開かれた夜会だったから。
 ――もしかして、ロジェリオの死を回避するために、私は時を戻ったのかしら。
 心の中でつぶやけば、それが真実のような気がしてくる。
 エリシアと出会わなければ、ロジェリオが殺されることはない。
 だって彼は、エリシアと婚約をしたことで命を奪われてしまったのだから。
 エリシアは胸元の傷にそっと手を当てた。あの時死んだはずの自分がこうして生きているのは、きっとロジェリオを守るためだ。
 最愛の人を死なせないために、エリシアは彼と交わることのない人生を選ぶことになる。だけど、ロジェリオが生きていてくれたらそれでいい。
 ――私が、あなたを守るから。
 そう決意して、エリシアは硬く拳を握りしめた。
 手の中に残る、ロジェリオのぬくもりを閉じ込めるように。
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