たとえ世界から「ごめん」が消えたって、


「おまえ、馬鹿だな」

「そうだよ、僕は馬鹿だしクズだ」

「最近おまえがどんな顔してるか自分で気づかないなんて大馬鹿だ」

「え、」


思わず頭を上げて弘也を見る。

彼は呆れた様子で僕を見据えていた。


「すっげー死にそうな顔。彼女といるときはもっと幸せそうな顔してたのに」


まるでこのままふらりとビルの屋上から飛び降りそうでヒヤリ案件だ、と冗談まじりに言う。


「ヒヤリ案件?」

「変なとこつっこむなよ」


ははっ、と乾いた笑い声はビールへ溶けた。

炭酸がしゅわ、と喉を刺激した。

それは僕をせき止めていた蓋のような何かに穴を開けた。



「自分の気持ちを表す言葉がこの世にないとき、弘也ならどうやってそれを相手に伝える?」

「え、なにそれ難しいワンモアプリーズ」


正確には、自分の気持ちを表す言葉がこの世から消えたとき、だが。


弘也もよく言ってた「ごめん」は、この世から消えた。

誰も認識しない。誰も遣わない。


僕の記憶の中でしか生きていないその単語たちに、僕は初めて、気持ち(いのち)を吹き込みたいと思った。


けれど、今さら生かしたって。

今の世界には、それを届けるための、手段がない。


どうしてこんなときに限って、消えてしまったのだろう。



きっとこれは罰なのかもしれない。

もしくは、これまで僕が口にしてきた数々の無感情な「ごめん」たちによる復讐か。



「伝えたい気持ちが、言葉では表現できないんだよ」


すると弘也は、ぱっと何かを思いついたように指を鳴らした。


「まかせろ、それなら俺の得意分野だ」

「え?」


目つきの悪い彼は、にやりと笑った。





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