たとえ世界から「ごめん」が消えたって、
「瞬くんみっけ!」
学生食堂へ続く廊下を歩いていると、うしろから聞き慣れた声がした。
蘭だ、と思って振り返る前にタタッという駆け足がすぐそばで着地する。
「今日はなんの日でしょーかっ」
ひょこ、と頭ひとつぶん低い位置に現れたのは、愛くるしい童顔だった。
ああ、今日も恨めしいほどかわいいね。
「今日?……ごめん、なんだっけ」
「もうっ、忘れんぼうなんだから。今日でわたしたち、1年だよ」
そう言って密着しながら歩く僕らは、はたから見ればバカップルなのだろう。
「ああ、そっか、ごめん忘れてた」
腕に絡まれた華奢な手からぎゅっと悲しみが込められた気がした。
「……その、“ごめん”って言葉、瞬くんしか言わないよ」
彼女は立ち止まった。
当然僕も、足を止めた。
隣を見る。
僕を見上げ、少し切ない表情の彼女。
「……そうみたいだね」
だって、この言葉はもう、この世に存在していないことになっているのだから。
「どういう意味なの?どうして瞬くん、わたしにいっぱい“ごめん”て言うの?」
まるで訴えるような目で質問を投げかける。
何が言いたいの?
どんな気持ちで言ってるの?
どういう時に遣うの?
わたしはどう受け取るのが正解なの?
どうして、なんで、と矢継ぎ早に飛んでくる不安の数々を、僕は黙って見つめることしかできなかった。