たとえ世界から「ごめん」が消えたって、
そんなことを言われたって、わからない。
なぜみんな“ごめん”という言葉を認識しなくなったのか全くわからないし、
意味をわかってたってそもそも僕はその言葉をうまく遣えないし、
彼女が僕の謝罪をどう受け取っているのかなんてどうでもいいとさえ、思っていたから。
「ごめん、僕もよくわからないんだ」
曖昧な答えに、彼女は納得いかない顔をする。
そうして次第に、僕を見つめるまあるい瞳から、切羽詰まった感情が消えてゆく。
「いつもいつも、“ごめん”ばっかりだね」
「ごめん…」
ほらまた、と目尻にシワをつくってふにゃりと笑う。
普段通りのへたくそな微笑みに、少し安堵したのも束の間。
「瞬くんが“ごめん”って言うと、なんだかわたし、悲しいの」
「かなしい?」
うん、かなしい、と再び言い聞かせるように告げて、するりと絡みあった腕をほどく。
苦しいではなく、悲しい。
そのへたくそな笑顔は、悲しみ、だったのか。
「瞬くん」
か細い声は今にも消えてしまいそうで、僕はからだごと彼女と向かい合うけれど。
うつむきがちな顔が、さらにうなだれる。
さらり、はちみつ色の髪が軽やかに揺れる。
彼女の表情は見えない。
「わたしたち、別れよう」