たとえ世界から「ごめん」が消えたって、




彼女が僕の隣からいなくなって、1週間が過ぎた。


学部が違うためこの広いキャンパス内で顔を合わせることはほぼなかったけれど、たまに彼女のちっぽけな後ろ姿を見かけることはあった。


そのたびに僕は、喉から手が出そうな衝動に駆られた。


馬鹿だ。もう僕のじゃないんだよ。

そうだよ、そんなこと、わかっているよ。

こうなったのは自業自得で、別に、彼女がいてもいなくても僕の日常は何ら変わらない、はず。





「飲み行こーぜ瞬! …って、そんな気分じゃないよな〜」


そう言って軽々しく僕の肩へ腕を回してきたのは、同じ学科で同じサークルの(たちばな) 弘也《ひろや》だった。


「急に巻き付くなよ」

「彼女と喧嘩したんだろ?」


鬱陶しさ最前面のセリフを華麗に無視した弘也は、僕の顔を覗き込む。


「誰から聞いたんだよ」

「誰も彼も、おまえら見てたらわかるって」

「喧嘩っていうか、別れた」

「は?」


少し攻撃的な目つきが僕を捉える。

少し派手な髪色が僕を浮かせる。


専攻もゼミもいっしょなのは奇跡的な偶然。

見た目も性格もかけ離れているけれどいっしょにいることが多いのは偶然的な奇跡。

つまり、正反対なふたりがずっといっしょにいるなんて、奇跡的な奇跡だよ。


「わかれた、って言った」


もう一度、ゆっくり、繰り返す。


「……やっぱ今日、飲み行こ」


決定な、と言って勝手に話を進めていく彼の腕力は、いつにも増して強引で優しかった。



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