たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました

「体調が悪いのですか?」

「いや、問題ない」


 ただ疲れただけだ。

 残りの力を振り絞り、その場に立ち上がる。そして、リビングに向かった。

 水が飲みたくてキッチンに向かうと、シンクの中には鍋やコップなどが残っている。おそらく梅本が夕食を取った際に使ったものだろう。

 ちらっと梅本を見る。彼女は罰が悪そうに笑った。

 以前、使用した食器などはすぐに洗うよう注意されたのを思い出したのだろう。梅本が焦ったように口を開く。


「今、洗おうと思っていたところです」


 ……絶対に違うと思う。

 ソファに目を向けると、お菓子の袋が置かれている。

 お皿を洗うことを忘れ、テレビを見ながらのんびりとお菓子を食べていたのだろう。

 相変わらずゆるい女だ。

 彼女を見ていると、いい意味で力が抜ける。

 溜まった疲労や抱えている悩みなどどうでもよくなってくるのだから不思議だ。

 思わずフッと声に出して笑ってしまった。


「どうしましたか?」


 突然笑った俺を不思議に思ったのか梅本が首を傾げる。

 そんな彼女の唇の横に何かがついている。おそらく食べていたお菓子のかけらだろう。

 会社では優秀な秘書なのに、なぜ家の中ではこうもゆるいのか。

 途端に梅本が無邪気で可愛らしく見え、愛おしく思えた。


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