たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
霧矢さんがイスに腰を下ろす。彼女のトレーには山菜うどんが乗っていた。
「梅本さんをここで見掛けるのは珍しいわね」
霧矢さんはそう言うと、長い髪を後ろでひとつにゴムで結わえた。食事をするとき顔にかかってしまうためだろう。
「いつもは後輩と一階にあるカフェか会社の外のお店で食べているんですけど、後輩が今日は休みなので」
「それで社食にいるのね」
霧矢さんが箸でうどんをすくい、するすると食べ始める。
広報部に所属する彼女はメディア対応も行うだけあり見た目に華があり、強いオーラを放つ女性だ。
そんな彼女がうどんを食べると、まるで高級レストランのコース料理の一品を食べているかのように見える。
ふと私が子供の頃に見たドラマに出てくる憧れの秘書の女性と霧矢さんの姿が重なって見えた。
もしもドラマの中の彼女が実在したら、きっと霧矢さんのような人なのかな……。
麦茶を一口飲んだ霧矢さんが私を見る。
「成海くんとは一緒にお昼を食べないの?」
霧矢さんがさらっと告げた“成海くん”という呼び方に慣れない。社内で成海社長をそう呼べる女性は同級生の霧矢さんだけだろう。
そんなことを思いつつ、先ほどの彼女の問いに答える。