たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
「その呼び方やめないか」
「呼び方ですか?」
「“成海社長”じゃなくて今日からはプライベートでも名前で呼ぶのはどうだ」
急な提案に私は目を丸くさせる。
成海社長を名前で呼んだのは、恋人役を頼まれたパーティーでのときと、結婚の挨拶で彼のご両親と私の両親に会ったとき。
それ以外は、言い慣れた“成海社長”と呼んでいる。
「お互いに名前で呼び合えば夫婦らしさが少しは出るんじゃないか。それに今日は“夫婦”として旅行をしているのだから、“成海社長”だと仕事の延長線のような気持ちになってしまう。だから、名前で呼び合おう」
成海社長はそう言って私にちらっと視線を向ける。
「いいな、恵麻」
突然の名前呼びに胸が甘く揺さぶられる。
パーティーのときや両親の前でも呼ばれたけれど、あのときはドキッとしたというよりも、慣れない呼ばれ方にどちらかというとこそばゆかったのを覚えている。
「名前で呼ぶのは嫌か?」
沈黙を拒否と捉えたらしい成海社長が再度尋ねてきた。
私は慌てて首を横に振る。
「い、いえ。嫌というわけではなくて」
「それじゃあ決まりだ。まさか俺の名前を忘れたりはしてないよな」