たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました

「五万……」


 ゼロがひとつ多いのでは?

 まさかこんなに高いとは思わなかった。

 でも、この店をプロデュースしているのが有名なデザイナーなので、やはりそのくらいの値段はするのだろう。

 残念だけど、今回は諦めよう。

 私はそっとブローチを棚に戻した。


「見つかったか」


 別の棚の商品を見ていた雅貴さんが私のところに来た。


「いえ、違うお店も見てみます」

「そうか」


 ふたり揃ってお店をあとにした。

 歩きながら、母に贈ってよろこんでもらえるものを考える。

 そういえば、お正月に帰省ができず電話で新年の挨拶をしたときの会話の中で、良く使っていた小さめの鍋が焦げてしまい、新しいのが欲しいと言っていた。

 それにしよう!

 ようやく母へのプレゼントが決まった。そのとき、隣を歩く雅貴さんの腕が私の腰に回り、ぐいっと引き寄せられる。

 突然のことでバランスが取れず、雅貴さんの体にぶつかってしまった。

 ぴたっと体がくっつく。

 急にどうしたのだろう。

 すると、前方から五、六人ほどの団体が歩いてきて私たちのすぐ横を通り過ぎていった。

 たぶん雅貴さんに引き寄せられていなければ、私はあの団体の中の誰かとぶつかっていたかもしれない。


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