たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
「ありがとうございます。ですが、時間がないので」
「時間か」
雅貴さんがちらっと時計を見る。それから再び私に視線を戻した。
「それなら今日は俺と一緒に車で通勤すればいい。いつもよりも遅く家を出られるから、朝食を取る時間もできるはずだ」
「い、いえ。そこまでしていただかなくて結構です」
顔の前で大きく両手を左右に振り、彼の申し出を断る。
雅貴さんの通勤手段は専属ドライバー付きの社用車だ。そこに私が乗るなんて恐れ多い。
すると、雅貴さんは腕を組み、じっと私を見つめる。
「遠慮するな。ドライバーには妻も一緒だと俺から伝えておく」
「ですが……」
「俺が朝食の支度をするから、恵麻は先に身支度を整えて来い」
雅貴さんの両手が私の肩に乗り、くるんと向きを変えられる。
そのまま軽く押され、キッチンを出るとリビングの扉まで誘導され、追い出されてしまった。
ポツンと廊下にたたずむ。
どうしよう。このままでは雅貴さんに朝食の準備をしてもらい、それを食べてから社用車で通勤することになってしまう。
そんな恐れ多いこと私にはできない。
とはいえ、せっかくの彼の厚意を断るのも失礼な気がする。