たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
「は、はい」
私は慌てて彼に視線を向ける。
「箸が進んでいないようだが、料理が口に合わないのか」
「いえ、そんなことはないです。とても美味しいです」
そう答えて、小鉢に入っている蛸をぱくりと食べた。
「柔らかい」
思わず感動してしまう。それくらい柔らかく、味も染みている。
「そうだな」
雅貴さんが軽く微笑み、蛸を口に運ぶ。
その瞬間、少し前に彼から言われた言葉をふと思い出した。
『どうしてわざわざ店に戻ってまでして、俺が恵麻にこれを買ったと思う?』
アウトレットで私のためにブローチを購入した理由を尋ねられた。
考えといてと言われたが、答えは出ていない。……いや、なんとなく気付いてはいる。
でも、そんなことはあり得ないので、正解かどうか自信がない。
もしも私の答えが合っていれば、すでに雅貴さんへの気持ちを自覚している私とは両思いということになるけれど……。
やっぱりそんなことはあり得ない。雅貴さんのような方が私を好きになるはずない。
彼に貰ったブローチは今日着ているワンピースの左胸につけている。ワンポイントになっていて、とてもかわいい。
私はそっと右手でブローチに触れた。