たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
「それ、似合ってるな」
隣から聞こえた声に視線を向けると、私を見て微笑む彼と目が合った。
雅貴さんは私のことが好きですか?
そう言えたらいいのだけれど……。
「ありがとうございます」
私が小さくお礼を言うのと同時に個室の襖が開き、次の料理が運ばれてきた。
その後も次々と料理が運ばれてきて、残すは甘味のみとなった頃。ついに郁真さんが席を立ち、そのまま部屋をあとにした。
待っていた瞬間に、今だ……!と、体が動く。
私はバッグを手に取ると、隣の雅貴さんに小さく声かける。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
「場所はわかるか?」
「はい」
お手洗いの場所はわからないけれど、私の目的は郁真さんなので問題ない。
私は急いで部屋を出た。
大きな窓の向こうに日本庭園が見える廊下に出ると、郁真さんの姿を探す。
ここから少し離れた先で見つけて後を追いかけた。
郁真さんが席を立った理由はお手洗いだと思ったが、彼はそこを通り過ぎてさらに廊下を進んでいく。そして、なにもない場所でふと立ち止まった。
両手をズボンのポケットに入れて、窓の外に広がる日本庭園を眺めている。
ぼんやりとした横顔は、食事会場を離れて休憩しているようにも見えた。
そんな彼にゆっくりと近づく。