たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
次の瞬間、足音が聞こえたかと思うと、勢いよく体を後ろに引かれた。
腰に回された腕に力がこもる。
「何してるんだ」
珍しく焦ったような雅貴さんの低い声が頭上から聞こえた。
一方の郁真さんは私を見たあとで、雅貴さんに視線を移し、そしてにこりと笑った。
「雅貴。あまり奥さんを不安にさせるなよ」
それだけ言うと、郁真さんは私と雅貴さんを残してこの場をあとにした。
人気のない廊下でポツンとふたりきりになる。
身動きが取れないまま後ろを見て、雅貴さんを見上げた。目が合うと、私の腰のあたりに回していた腕が離れて体が開放される。
次の瞬間、くるんと向きを変えられ、正面から見つめ合った。
「雅貴さん、どうしてここに?」
「お手洗いに行くと言って部屋を出た恵麻の様子がおかしかったから、後をつけてきた」
自分ではさり気なく席を立ったつもりだったけれど、雅貴さんには不自然に見えたらしい。
「兄貴とここで何をしていた」
「えっ。えっと……」
雪白室長に頼まれて郁真さんに連絡先を渡したことは雅貴さんに伝えていいのかな。
答えられずにいると、彼が小さく息を吐く。