たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
あのとき、突然距離を詰められ、郁真さんの顔が近付いてきた。
「そういえば、試してみようと言われました」
「試す?」
雅貴さんが不思議そうに呟いた。
「何をだ?」
「何をでしょう?」
確かその言葉を言われる前に郁真さんは、食事会のときの雅貴さんが私に優しい表情を向けていたと話していた。そして、彼が私を大好きだとも言っていた。
私が信じられないでいると、『試してみよっか』と言われて……。
「なるほどな」
しばらくして雅貴さんが何かを思いついたように声を上げた。そして、少し困ったように瞳を細める。
「つまり俺は、兄貴の罠にハマったのか」
「罠、ですか?」
雅貴さんは何かわかったようだけれど、私はまだわからない。
「兄貴は俺を試そうとしたんだろうな。恵麻が兄貴にキスされそうになっているのを見た俺がどんな行動を取るのか」
そこまで言われて、私もやっとわかってきた。
もしかして郁真さんは、廊下で私と話をしているときに雅貴さんがこちらに向かってきていることに気付いて、彼の私への気持ちを確かめようとしたのかもしれない。
私がキスをされそうになったのを見て、雅貴さんがどんな反応をするのか試したのだろう。