たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
「安心しろ。まだ手は出さないから」
その言葉にドキッと胸が跳ねた。
動揺する私の一方で、雅貴さんは余裕のある笑みを浮かべている。
これが恋愛経験の差だろうか。
再び雑誌を読み始めた彼をじっと見ながら、手に持ったままでいたパンをぱくりと食べた。
私が寝坊をしたり、鳥の巣のような髪を直していたりしたせいで、イベント会場である百貨店に到着したのはお昼頃になってしまった。
私は遅めの朝食を取ったのでお腹は満たされているが、いつも通りの時間に食べた雅貴さんはお腹が空いているかもしれない。
「先にお昼を食べますか?」
百貨店のエントランスをくぐったところで提案すると、隣を歩く彼が不思議そうに私を見る。
「さっき食べてきたばかりだろ。まさかもう腹が減ったのか」
「違います! 雅貴さんはお腹がすいていると思って」
「俺か? 俺は、まぁ大丈夫だ」
すっと視線を逸らして答えた言い方に、なんとなくだが彼が私のために嘘をついている気がした。
本当はお腹が空いているのではないだろうか。
「雅貴さんだけでも先に食べてきていいですよ。私はひとりでチョコレートを見に行くので」
その方がいいと思い提案したが、私を見る雅貴さんの眉間に皺が寄る。