たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました

 峰田さんだ。

 彼は、昨年まで雅貴さんの移動用の社用車を運転していた六十代の男性で、定年退職を機に現在は友人が経営する都内のタクシー会社に再就職している。

 就航記念セレモニーの際、私の不手際でバスがキャンセルになったときに、数台のワゴンタクシーをすぐに手配してくれた記憶が新しい。
  
 私はすっとイスから立ち上がり、少し離れた場所にいる彼に向かって「峰田さーん」と声を掛けた。

 すぐに気付いて振り向いてくれる。


「梅本さんじゃないか」


 まさかこんな場所で会うとは思っていなかったのだろう。驚いたような表情の峰田さんがこちらに向かって歩いてくる。


「お久しぶりです、峰田さん。就航記念セレモニーの際は大変お世話になりました」


 あのときのお礼をしっかりと伝えられていなかったこともあり、私は深く頭を下げた。


「そんなのいいって。梅本さんの役に立ててよかったよ」


 峰田さんがにこにこと笑いながら答える。

 男性にしては小柄で、柔らかな顔つきをしている彼は性格も優しくおっとりとしている。

 雅貴さんのドライバーをしていた頃から私とは気が合い、顔を合わせるとよく雑談をしていたことを思い出した。


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