たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
「行くわよ」
顔を上げた彼女が玉置さんを見て、退室を促す。ふたりは揃って社長室を後にした。
「恵麻」
背を向けていた彼が振り返る。イスから立ち上がると、私のそばに来た。
「大丈夫か?」
肩にそっと手を置かれ、雅貴さんが私の顔を覗き込む。
ついさっきまで冷酷に玉置さんを追い詰めていた人物とは思えないくらい優しい声だ。
「……大丈夫です」
そう答えた私の声は震えていた。
ぎゅっと下唇を噛む。
玉置さんの私に対する想いを初めて聞き、胸が締め付けられるように苦しくなった。
まさかあそこまで嫌われているとは思わなかった。
「玉置とは仲がよかっただろ」
気遣うように尋ねられ、私は小さく頷いた。
玉置さんとは歳も近いし、秘書室のデスクも隣だし、よく一緒にランチも取り、先輩と後輩という垣根を越えて、友達のように仲がいいと思っていた。
今日のランチのときだって私の体調を心配してくれたのに。
全部、嘘だったんだ。
「……っ」
ずっと我慢していたけれど、とうとう堪えられなくなり目に涙がじわじわと溜まる。
でも、ここは職場で、今は仕事中。雅貴さんは夫だけれど、今は上司だ。
ここで泣くわけにはいかない。