たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
その瞬間、私は自分の服装を思い出す。
今着ているのは持参した部屋着。何年も着ているので生地はよれよれだし、首元はだらしなく広がっている。
「あ、あの……」
成海社長と目が合い、気まずくなった私は恐る恐る声をかけた。
「これはですね、その……バッグに入れたはずのスマートフォンの充電器が見当たらずに捜していたところで……」
部屋の状況を説明する途中で、成海社長がコホンと咳払いをした。
「梅本。ひとつ聞きたいことがある」
「は、はい」
しゃんと姿勢を正す。
まさか散らかった部屋とよれよれの部屋着について何か言われるのだろうか。
手に持っていた充電器とスマートフォンを慌てて近くのデスクに置き、ドキドキしながら成海社長を見つめた。
「クイーン・ブルーの明日の出港時間と目的地、寄港する港を教えてほしい」
想像していたのとは違う要件にホッとする。
どうやら成海社長は、この部屋の散らかり具合と私の服装については触れないことにしたらしい。そんなことよりも、ここへ来た本来の目的を優先させたようだ。
あまり他人に興味がなさそうな彼らしい判断だと思う。
就航記念セレモニーを終えたクイーン・ブルー号は明日から処女航海に出る予定だ。そのスケジュールを尋ねられたが、確認しないと私もわからない。
「少々お待ちください。えっと、タブレットは……」
その中にクイーン・ブルー号のスケジュールが入っているので、それを見ないと成海社長の質問に答えられない。