たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
ゲストに挨拶に回っている間は成海社長をしっかりと名前で呼べたが、ふたりきりになると少し気が抜けていつものように呼びそうになる。
「せっかくのパーティーだ。このあとは食事を楽しもう」
「はい」
ずっと気を張っていたせいか空腹を感じなかったが、今になってお腹が空いていてきた。
時刻は午後七時。普段ならそろそろ夕食の時間だ。
パーティーは立食形式で行われていて、飲食を楽しみながらゲストは会話を楽しんでいる。
テーブルの上には様々な料理が並び、どれもとても美味しそうだ。
何から食べようかと迷っていると、成海社長がジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出した。
「俺は一件電話を掛けてくる。ここを少し抜けるが、恵麻は食事を楽しんでくれ」
「はい」
ゲストへの挨拶回りの間中、成海社長からは何度も“恵麻”と呼ばれたけれどやはり慣れない。
低く通る声で名前を呼ばれるとついドキッとしてしまう。とても心臓に悪い。
もしも私が成海社長の本物の恋人になったら、毎日寿命が減り続けると思う。
……いや、私が恋人になんてあり得ないので、余計な心配だ。
そんなことを考えながらお皿を片手に料理を選んでいると、「こんばんは」と後ろから声を掛けられた。