たった一日の恋人役のはずが、敏腕社長の妻になりました
「はい。行ってらっしゃいませ」
ここは会社ではないのに、つい秘書の癖で丁寧な見送りの言葉と共に深く頭を下げてしまった。
顔を上げると、なぜか冷ややかな視線を向けてくる成海社長と目が合う。
「その服のときに前屈姿勢を取るな。見えるぞ」
……見える?
何を言われているのかわからずきょとんとする私を無視して、成海社長は背を向ける。そのまま玄関へ向かい、扉を開けると出て行ってしまった。
先ほどの成海社長の言葉がわからないまま洗面室へと向かった。
洗顔をするため両手で水をすくおうと少し前かがみになる。ふと目の前の鏡に映る自分が目に入り、先ほどの成海社長の言葉の意味がようやくわかった。
着古しているせいか首元がだらんと開いた服からは、ちらりと胸元が見えている。
「……!」
私は慌てて体を元に戻す。
成海社長に見られた?
どう思っただろう。注意するような口調だったので、そんなものを俺に見せるなと呆れたに違いない。
洗顔をすませたあとはリビングダイニングへ向かい、キッチンで朝食の支度をする。とは言っても時間をかけたくないので買い置きしてある菓子パンとコーヒーのみだ。
食べ終えると、着替えと化粧をして家を出た。