アイヴィーの花冠 ~シスコンと恋愛を拗らせた私はこの度、好きな人の屋敷でメイドとして働くことになりました~

 何をしてもそれは『リアゴールド家のご令嬢』だから。

 幼いマリー様は、シンドラー王子の婚約者に選ばれたことすらリアゴールドの娘だからなのだと思いこんでいた。
 だからこそ以前の彼女はシンドラー王子に近寄る全ての女性を威嚇し続けたのだ。

 政略結婚なんてそんなものだと言い切ってしまえばその通りなのだが、彼女の愛読書はロマンス小説だ。
 いつか本当の愛に気づいた王子がどこかに行ってしまうのだと、自分は物語に出てくる悪役のようになってしまわないかとおびえていた。

 だからこそ彼女は権力を振りかざすことを嫌っている。
 それこそが物語に出てくるご令嬢と、自分との決定的な差であると線を引くために。

 それはシンドラー王子との思いが通じた後も同じだった。
 なのに彼女は今日、その力をディートリッヒ様に振るった。それはきっと、大きな覚悟が必要だったことだろう。

 か細い腰を抱いて、馬車のイスに並んで座る。
 誰かが見ていたらきっと、身分を弁えろと怒るだろう。
 けれどここにいるのは私とマリー様、そして彼女付きの使用人である。

 誰も怒る者はいない。
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