政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
あの夜以降、すみれは慧の顔をまともに見られなくなった。


羞恥と、不安と、罪悪感と……。他にも上手く言語化できない様々な感情があり、自分自身の心の整理がついていない。


それに、なにを言ったところで彼には言い訳に聞こえるかもしれない。そう思うと、どう説明すればいいのかわからなかった。


そもそも、あの翌日は慧が早朝に出掛けていき、帰宅は深夜だった。そのまま彼と顔を合せなかったことも、今の状況に拍車をかけている気がする。


その次の日に会ったときには、どこかぎこちないまま。慧もセックスについてはなにも言わず、けれどなぜか夕食は一緒に摂った。


しかも、それ以降、彼は毎晩家で夕食を食べているのだ。
偶然かもしれないが、すみれにとっては突然の変化である。慧と一緒に過ごせるのは嬉しい反面、彼の真意がますますわからなくて困惑も大きくなっていた。


家でも自分と仲良くするつもりだろうか。まさかそんな気はないだろう。
ひとりでグルグルと考えては、出口のない思考の中をさまよっている。


慧は、この結婚には乗り気だったわけではない。婚約者候補として現れた彼の表情は穏やかだった気がしたが、今から思えば外面だったのだろう。


六条が御門に利益を与えられなくとも、名前にはまだ利用価値がある。婚約披露パーティーの慧と誠二との会話から、そのことは重々理解している。


慧は、家のために仕方なく結婚しただけ。すみれと結婚したかったのではなく、由緒正しい家柄との繋がりが欲しかっただけ。


『こんなことなら、さっさと後継ぎを作った方がよかったか』


彼に言い放たれた言葉が、あの日から何度も脳裏に響いている。
跡継ぎを作りたいだけなのだから期待してはいけない、とすみれを嘲笑うように――。

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