政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
始業時間になり、すみれはパソコンを起ち上げる。まずは、三日後が期日の資料作成に取りかかった。


すみれの業務は、主に内線対応や資料作成である。といっても、誰かの補佐として行うことがほとんどだ。


もちろん、雑務を含めたこういった仕事が大切なのは重々わかっている。
反して、どんどん新しい業務を覚えていく同期たちを見ていると、疎外感を持ってしまう。自分だけがステップアップできないことが虚しく、歯がゆくもあった。


それでも、与えられた仕事を粛々をこなしていく。
真面目に働かなければ、もっと幻滅されてしまうだろう。なによりも、自分自身が仕事に手を抜くことを許さない。
役に立てなくても、任された業務くらいはきちんとやり遂げたかった。


すみれの父は、すみれの就職はあくまで腰掛けだと考えている。そして、それは社内でも暗黙の了解のようになっている。


『六条さんは結婚したら辞めると思ってたよね』


少し前に、そんな風に話している社員たちの姿を見かけた。すみれは気づかれないようにその場を離れたが、社内に居場所がない現実を突きつけられ、胸の奥が痛んだ。


けれど、その原因は自分にもある。


父に言われた通りの道を歩いてきた。六条商事は水面下で後継者争いがあり、その中に入れもしないすみれが出しゃばることは許されない。


部署内でも、社長の娘という扱いにくい存在として距離を置かれている。自分の立ち位置をわかっているからこそ、会社で積極的になることはなかった。
その結果が、これだ。


父の思惑が絡んでいるにせよ、周囲と打ち解ける努力をしてこなかったのも事実。これ以上迷惑だと思われたくなくて、大人しくしている方がいいと考えたのだ。


そんな人間と親しくなりたい者や気にかける人間がいるはずがない。すみれに取り入っても利益がないことが明白なため、それすらもないのだ。


だからといって、家に帰っても似たようなもの。一緒に住んでいる夫はすみれに関心がなく、ふたりの間には大きな壁がある。
家でも会社でも、すみれには居場所がなかった――。

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