政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
出鼻を挫かれる、とはこういうことを言うのだろう。
美弥と会った日から数日、また慧の帰宅が遅くなるようになった。
朝は早くに出社し、夜は日付けが変わる頃に帰ってくる。当然、ゆっくり話せる暇などない。
すみれは、できる限り顔を合わせる努力をしているけれど……。そのたびに、彼から『俺に合わせなくていい』と言われてしまう。
それが慧の気遣いだと、今ならわかる。だから、すみれは『無理はしませんから』と返し、彼の見送りと出迎えをするようになった。
拒否されるかと思ったが、今のところそんな様子はない。むしろ、すみれが出迎えると、慧がどこかホッとしたように表情を緩めることがある。
思い上がりだとしても、彼との距離がまた少しだけ近づいた気がして……。気のせいだと思いたくなった。
そうして迎えた、昨日のバレンタイン。残念ながら、慧から【今夜は帰れない】とメッセージが届いた。
恐らく、トラブルがあったのだろう。仕事の話は訊くことも聞かせてもらえることもないため、実際のところはわからないけれど……。
そして、朝になっても彼は帰ってきた様子がなかった。
「せっかく作ったのにな……」
すみれは、昨夜作っておいたザッハトルテを見てため息をつく。
美弥と行ったバレンタインフェアでは、市販のチョコレートは買わなかった。慧なら高級チョコなど食べ慣れていると思ったから。
それなら、世界でたったひとつ、彼だけのために作ろうと考えたのだ。
慧がいない日に試作したものよりも、本番の昨日の方が上手くできたのに……。渡す相手が帰ってこないなら、どうしようもない。
ツヤツヤのグラサージュでコーティングされたザッハトルテが、悲しげに見えた。
美弥と会った日から数日、また慧の帰宅が遅くなるようになった。
朝は早くに出社し、夜は日付けが変わる頃に帰ってくる。当然、ゆっくり話せる暇などない。
すみれは、できる限り顔を合わせる努力をしているけれど……。そのたびに、彼から『俺に合わせなくていい』と言われてしまう。
それが慧の気遣いだと、今ならわかる。だから、すみれは『無理はしませんから』と返し、彼の見送りと出迎えをするようになった。
拒否されるかと思ったが、今のところそんな様子はない。むしろ、すみれが出迎えると、慧がどこかホッとしたように表情を緩めることがある。
思い上がりだとしても、彼との距離がまた少しだけ近づいた気がして……。気のせいだと思いたくなった。
そうして迎えた、昨日のバレンタイン。残念ながら、慧から【今夜は帰れない】とメッセージが届いた。
恐らく、トラブルがあったのだろう。仕事の話は訊くことも聞かせてもらえることもないため、実際のところはわからないけれど……。
そして、朝になっても彼は帰ってきた様子がなかった。
「せっかく作ったのにな……」
すみれは、昨夜作っておいたザッハトルテを見てため息をつく。
美弥と行ったバレンタインフェアでは、市販のチョコレートは買わなかった。慧なら高級チョコなど食べ慣れていると思ったから。
それなら、世界でたったひとつ、彼だけのために作ろうと考えたのだ。
慧がいない日に試作したものよりも、本番の昨日の方が上手くできたのに……。渡す相手が帰ってこないなら、どうしようもない。
ツヤツヤのグラサージュでコーティングされたザッハトルテが、悲しげに見えた。