政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
(どうして急に……? 私が離婚なんて言ったから? でも、このタイミングで?)


ヘアオイルを塗って髪を整え、歯磨きをしている間も、色々と考えたけれど……。彼の考えや答えがわかるはずもなく、すみれはリビングに行った。


ソファにいる慧が顔を上げ、「なにか飲むか?」と訊く。すみれは「自分で淹れるので大丈夫です」と返し、ウォーターサーバーの水を飲んだ。


「すみれ」


グラスの半分ほどの水を飲んだところで、彼に呼ばれて振り向く。すみれの視界に入ってきたのは、どこか神妙な面持ちだった。


「今夜は……いや、今夜から一緒に寝ないか?」
「へっ?」
「無理強いする気はないし、あの日みたいに強引なこともしない。いや……そうじゃないな」


突然の提案に、すみれは困惑でいっぱいになる。真剣な瞳で話す慧は、最後だけ自分に言うように声を小さくした。


「この間はごめん……」


程なくして零された謝罪に、すみれは驚きを隠せない。なんの話をされているのかはわかったが、まさか謝られるとは思っていなかったからだ。


「いくら夫婦でも、同意も得ずにするべきことではなかった。すみれは……その……初めてだったのに……」


その上、処女だということを言葉にされて恥ずかしくなる。ただ、彼は本気で反省しているのか、後悔と罪悪感が滲んでいるように見えた。


「謝らないでください……。私たちは夫婦ですし……私は恋愛に慣れていないので上手くできませんでしたが、覚悟はしてたつもりなので……」


不安だったし、怖さもあった。けれど、心から嫌だったわけではない。
キスも、セックスも……なによりも慧の温もりを感じられたことも嬉しかったのは事実だ。


「覚悟……そうだよな。ごめん……」


彼が眉をひそめ、息を深く吐く。それはすみれに対してではなく、自分自身に向けているのではないかと感じた。

< 124 / 204 >

この作品をシェア

pagetop