政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「恩返しなんて考えなくてもいい。仕事は仕事、俺たちは俺たちだ」
「でも、それじゃあ……」
「いいんだ。俺たちは夫婦なんだから」


(そうだけど、政略結婚なのに……)


頭に浮かんだ言葉は口に出せなかった。慧の声で紡がれた〝夫婦〟という言葉に温もりを感じたから……。もしこれを言ってしまったら、彼を傷つける気がしたのだ。


「さっきの提案だが、すみれが嫌なら断ってくれて構わない。その代わり、もし心の準備ができたら、そのときは――」
「嫌じゃありません!」


思わず慧の話を遮ってしまい、すみれはハッとする。


「あっ、えっと……夫婦ですし……」
「うん」


また、彼の口調が砕けている。そのたった二文字にも優しい微笑からも、喜びが滲んでいる。


「おいで」


慧がすみれの手を取り、寝室へと誘う。中に入るとベッドに促され、すみれはおずおずと身体を横たえた。


続いて、慧もベッドに入ってくる。しかも、あろうことか彼に自然と抱き寄せられ、腕枕をされた。


「あっ、あの……重いと思うので……」
「ちっとも重くないから、気にするな」
「でも……」


慧のベッドで、身体の距離も近い。腰に回った手と目の前にある彼の顔に意識が集中し、全身が熱くなっていく。


「心配しなくてもなにもしない。次はちゃんとすみれの心が追いつくまで待つから」
「え……?」
「もう、すみれを怖がらせたくないんだ」


目の前にいるのは、本当に慧だろうか。瓜二つの別の人間だと言われた方が、よほど納得できそうだ。


だって、彼の言葉は優しさで満ちている。ともすれば、愛すらあるような気がするほどに……。

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