政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
複雑な気持ちを抱えたすみれは、食事も摂らずに過ごした。


真輔には申し訳ないと思う。一方で、彼に対して感じているのはそれだけで、罪悪感を抱けるほどでもなかった。


ただ、なんとくなく食べる気になれなくて……。お風呂を済ませたあとは、リビングのソファでぼんやりとしていた。


「ただいま」


慧が帰ってきたのは、すみれの帰宅から三時間が経った頃のこと。ぼんやりとしていたすみれは、彼に声をかけられるまで気づかなかった。


「おかえりなさい」


慌てて立ち上がり、笑顔を向ける。そんなすみれに反し、彼の表情には不穏な色が浮かんでいた。


疲労とはたぶん違う。もちろん疲れもあるだろうが、もっと複雑でほの暗い感情が滲んでいるように感じた。


「どうかしましたか?」


すみれは踏み込んでいいのか一瞬悩んで、勇気を出して尋ねる。今の自分たちの関係なら、このくらいの質問は許されるのではないか……と思った。


ところが、慧はすぐに答えようとしない。苛立ったように眉をひそめ、やり場のない感情を吐くようにため息を零した。


「……そんなにあいつがいいのか?」
「えっ?」


なんの話をされているのかわからず、すみれは首を傾げてしまう。『あいつ』に心当たりがなく、誰を指しているのか見当もつかない。


「仕事の移動の途中で少し六条商事に立ち寄ったんだが、そのときに駅ですみれを見かけた。あの男……東海林と一緒だったな」


すみれは目を見開いたあと、真輔からの告白を思い出して気まずさを抱く。やましいことはないが、咄嗟に視線を逸らしてしまった。

< 141 / 204 >

この作品をシェア

pagetop