政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
(美弥に気づかれなくてよかった……)


彼女と別れたあと、すみれは胸を撫で下ろした。けれど、帰路に就いた足取りはとても重く、ため息ばかりが漏れる。


慧は、すみれをとても大切にしてくれている。惜しみなく愛を唱えてくれるが、今なら言葉がなくても伝わってくるくらいに……。


だからこそ、迷いが消えない。


慧の傍にいたくて、真輔を選ぶなんて考えたくもないのに……。慧が優しく愛してくれればくれるほど、彼が今後も守っていく御門ホールディングスを傷つけたくないという思いが大きくなっていく。


あのデータが流出すれば、六条商事は倒産するかもしれない。そうなると、必然的に御門ホールディングスも無傷では済まない。


御門の力は大きく、六条や東海林製菓とは比べ物にならない。
真輔もその程度のことはわかっているはずだ。それでも勝算があるからこそ、彼はあんな条件を出したのだろう。


仮に、真輔が六条の名前を手に入れても、再起させられるとは思わない。もし彼にそんな力があれば、父がもっと早くに婚約者候補にしたはずだからだ。


だったら、真輔が六条を手に入れたところで、六条商事は沈みゆく船になるだけ。今度こそ、本当に助かる見込みはなくなる。
けれど、少なくとも御門ホールディングスは無傷でいられるのではないだろうか。


御門にとって、今の六条商事はまだ足枷のようなもののはず。それを失ったところで損害が出ても、きっと取り返せる。
機密情報が流出するよりも、遥かに傷は浅くて済むはずだ。


その判断を、選択を、すみれに委ねられている。すみれの答えひとつで、御門と六条の命運が変わるかもしれない。


(あと一週間で、もし解決策が見つけられなかったら……)


星ひとつ見えない夜空の下で、すみれは唇とこぶしをぎゅっと握りしめた。

< 174 / 204 >

この作品をシェア

pagetop