政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「六条すみれです」
「君のことは知ってるよ。何度か見かけたことがある」


すみれにとって、彼は天上人に近いものがある。そんな人の存在を認知されていたことに、目を真ん丸にしてしまった。


「いつも不安そうで、どこか諦めたような目をしてる。表情も硬くて、笑顔はあまり見たことはない」


慧だって、表情が豊かとは言い難いだろう。決して無表情ではないが、どこか冷たい雰囲気を纏っている。
遠くで見ていたときに感じていた近寄りがたいオーラも、ひしひしと伝わってきた。


けれど、彼の言うことが正しいのもわかっている。自分なりに取り繕っているつもりだが、見る人が見ればすみれの評価はそんなものなのだろう。


「こういう場は苦手で……。六条の娘がこんなことでは、みなさんから呆れられていると思います」


自嘲交じりに笑ったすみれに、慧が真っ直ぐな目を向けてきた。


「家は家、君は君だろう」
「えっ?」
「俺から見れば、君は可愛らしい女性だよ」


どこか優しい声音が、東屋に落ちていく。彼に他意はないとわかっているが、甘く感じた言葉にすみれの胸が小さく高鳴った。


しかし、それは一瞬のこと。

「君の隠れた呼び名は、高嶺の蕾だそうだ」

次いでそう言われ、すみれの心の中が急速に冷えた。


「知ってます。さっきの男性にも言われましたし……その前からも」


語尾が小さくなる。そんなすみれを見れば、その呼び方にコンプレックスを持っていることは伝わっただろう。


笑顔でいようとするが、口角が上がらない。それどころか、泣きたくなってくる。

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