政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「そんな顔をする必要はないだろう」


なんでもないことのように言われ、すみれの中にもやもやとしたものが芽生える。


きっと、慧にはわからないのだ。
大企業の御曹司で、周囲が一目置く存在。いずれは御門ホールディングスを継ぐと言われていて、地位も名誉も持っている。


すみれは噂で聞いただけだが、仕事ができるという話もある。
パーティーで見かける彼はいつも華やかで、周囲には多くの人が集っている。


慧にしてみれば、呼び名ごときどうでもいいのだろう。小娘の悩みなど、彼にはちっぽけなものに見えるに違いない。


「どんな花でも、蕾の時期がある」


ため息を漏らしてしまいそうだったとき、慧が静かにそう切り出した。


「つまり、蕾ならこれからどんな花でも咲かせられるということだ」


彼の言葉が、やけに鼓膜に響いた。


まるで、蕾でもいいんだ、と言われているみたいだった。今のすみれを受け入れ、優しく肯定してくれたようにも思える。


だからなのか、かけられたばかりの言葉がすみれの胸にまで届いて……。そこで静かに根差していく気がした。


「君なら、君だけの美しさを持った花を見せてくれそうだ」


こんな風に言われたのは、初めてだった。
他意はなく、その場凌ぎのおべっかだったのかもしれない。ただの社交辞令で、慧にとっては明日になれば忘れているようなことかもしれない。


けれど、すみれは違った。一生忘れられない気がしたのだ。


ふっと、心が緩む。そう気づいた次の瞬間には、頬も綻んでいくのがわかった。


自然と笑えたのは、いつぶりだろうか。急に心が軽くなって、鬱屈としていた気持ちまでもが解れていく。
薔薇の香りに包まれた夜が、とても心地よかった。

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