政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
六月も半ばが過ぎた土曜日。


すみれは、父から食事に誘われた。実家ではなく、外で食べるのだという。


珍しいこともあるものだな、と思ったが、母は同席しないと聞いて色々と悟った。会わせたい相手がいるのだ……と。


大学四年生の頃から、こういうことが度々あった。年の近い見知らぬ男性が同席する席で、食事をするのだ。ひどいときには、一気に三人と会ったこともある。


彼らは婚約者候補だったのだろう。しかし、二度目に至った者はひとりもいない。
要するに、過去に会った男性たちは父が満足できない相手だった……ということだ。


今回もそうだとは限らないが、すみれは人形のような笑顔で座っているだけ。父の顔色を見て、大人しく過ごす。
そのあとどうなるのかは、結局は父次第なのだ。


言うまでもなく気は進まないが、かといってすっぽかすこともできない。すみれに選択権はないため、場を乗り切る他なかった。


指定された料亭がある駅前の百貨店に入り、化粧室で身なりを確認する。
五分丈のワンピースは、パステルブルーの生地に小さな花があしらわれたもの。パンプスとバッグはベージューで、明るくありつつも落ち着いた雰囲気を意識した。


控えめに施したメイクが崩れていないことを確かめ、髪を耳にかける。程なくして、気が重いまま再び外に出た。


照りつける太陽の熱が、今日はやけに身体に纏わりつく気がする。鬱陶しいほど暑くて、たった五分の道のりで息が上がってしまいそうだった。


この料亭には、何度か訪れたことがある。今日と同様に、すみれを男性と会わせるために父が席を設けるのは、いつも同じ店だった。


すべて個室で、従業員の口は堅い。料理の味も一流だが、なによりもプライバシーが確保されていることが重要なのだろう。


女将に案内された部屋の前に着いたのは、約束の時間の十分前。しかし、彼女の話では、すでに父もその連れに当たる男性も来ているのだという。


先方よりも遅くなってしまったことを、責められるに違いない。すみれは余計に気が重くなったが、女将がふすまを開ける前に笑みを繕った。

< 28 / 204 >

この作品をシェア

pagetop