政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「お待たせして申し訳ありません」


部屋に入るなりそう言い、謝罪の意を込めて頭を下げる。顔を上げたところで、視界に入ってきた光景に瞠目してしまった。


(どうして……)


目の前にいるのは、父を入れて三人。


「久しぶり、すみれちゃん」


ひとりは、『東海林(しょうじ)製菓』息子――東海林真輔(しんすけ)真輔である。
すみれとは母校が同じで、母親同士が学生時代から親しい。そういった経緯から、家族でも交流を持っていた。


三歳年上の彼が大学を卒業してからは、あまり会わなくなったけれど……。母親たちは定期的に会っているため、母から真輔の話を聞くことはあった。


「お久しぶりです」


どうにか挨拶をしたすみれの心は、彼のことを見ていない。敬語を使うような間柄ではなかったが、そんなことすらどうでもよかった。


「私ともお久しぶりですね」


なぜなら、すみれを見つめるもうひとりの男性が慧だったからだ。
一瞬、見間違えたかと思った。そうでなければ夢かもしれない、とも考えた。


「早く座りなさい。彼らは忙しいのに時間を作ってくれてるんだ」


けれど、父の声で現実に引き戻される。


「すみれさんはこちらへ」


すぐに動けずにいると、慧が立ち上がってすみれを父の隣へと誘ってくれた。


「すみません……」


訊きたいことは山ほどあるが、口にできたのはそれだけだ。父も真輔もいる手前、迂闊なことは言えない。


「君たちのことは改めて紹介するまでもないだろうから、まずは食事にしよう」


父の言葉に、ふたりが小さく頷いて同意する。すみれだけが状況を呑み込めない中、まずは先附が運ばれてきた。


女将が料理の説明をしていたが、ちっとも耳に入ってこない。お茶の味も、先附の味も、なにひとつわからなかった。


慧と真輔は、父を交えて他愛ない話をしている。それぞれの会社を褒め合うような会話だったと思うが、これもすみれの頭には入ってこなかった。

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