政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
パーティーは二十一時に終わり、招待客を見送ると二十二時近くになった。両親たちとはここで別れ、すみれは慧に送ってもらうことになっている。


控室でドレスから普段着のワンピースに着替えたあと、彼の迎えを待っていた。


ところが、慧はなかなか現れない。すみれはスタッフに断りを入れ、控室を出て彼を探しに行った。


二十二時半を回ったホテル内は、とても静かだ。人の気配はあまりなく、広い廊下はどこまでも静寂に包まれている。


少しだけ不安になったが、恐らく慧は近くにいるはず。
そう考え、同じ階にあるロビーに向かう途中。

「慧もとうとう結婚するか」

聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


すみれは、咄嗟に柱の陰に身を寄せる。すぐ近くのロビーが見え、そこに慧と彼の秘書の花崎誠二(はなさきせいじ)がいた。


「まだ半年後の話だ」
「半年なんてあっという間だろ」


慧の母方の従兄弟である誠二は、温厚そうな雰囲気の男性だ。しかし、すみれが何度か話した限りでは、優しげな雰囲気に反して口調がきつく感じることもあった。
シルバーフレームのメガネが、彼の冷たさを表しているようでもある。


慧から聞かされた誠二の話は、『面倒見がよく、真面目な人間』ということくらい。既婚者だとも聞いているが、あまり家庭を持っているような感じはしない。


慧いわく、母方の血筋だから後継者争いには関係ないようだ。もっとも、慧の母の家柄もいいため、誠二も然りなのだけれど。


多くを語らない慧だが、会話の端々から誠二を信頼しているのは伝わってきていた。


「お前は色々とわかりにくいから、結婚に向かないだろうな」
「誠二には言われたくないな。お前だって、似たようなものだろ」
「俺は、家ではそれなりにわかりやすくしてるんだよ。お前と違って、オンオフの切り替えが上手いんだ」


気安い口調から、ふたりの関係性が伝わってくる。


「いずれにせよ、箱入りお嬢様の機嫌を損ねないようにちゃんといい夫を演じろよ。あのお嬢様は世間知らずそうだし、苦労するだろうけどな」


呆れたような物言いと〝いい夫〟という言葉が、妙に引っかかる。
すみれは盗み聞きするつもりはなく、すぐにこの場を離れるつもりだった。けれど、嫌な予感がして動けなくなる。

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