政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「ありがとうございます。実は、お腹がペコペコで……」
「すみれさんはほとんど食べられなかったからな」
「御門さんもですよね」
「俺は仕事で慣れてるから平気だ。でも、どこかで食べてから帰ろうか」
「はい」


慧の『帰ろうか』という言葉に一瞬ドキッとしたが、それを隠すように大きく頷いた。
今日から、すみれは彼と同じ家に帰る。


新居は慧が見繕い、少し前に契約した。内覧は一緒に行き、昨日までに荷物も運び込んでいるため、すでにふたりとも何度か足を踏み入れている。


ただ、内覧以外は個々で行き来していた。つまり、ふたりきりで家に入るのはこれからが初めてだ。


そう思うと緊張するが、きっと彼は気にも留めていないだろう。だからこそ、すみれもこの気持ちを悟られないよう、笑顔で結婚式場を後にした。


「そういえば、今日からすみれって呼んでもいいか?」


慧が車を出してすぐ、前を向いたまま問いかけてきた。左ハンドルの高級車を運転する彼は、相変わらず優雅だ。
すみれは小さく頷いたあとで、慧が運転中だということを思い出して口を開く。


「もちろんです」
「じゃあ、すみれも名前で呼んで」


初めての呼び捨てと、すみれにとっての難題。ふたつが一気に降りかかり、「へっ?」とまぬけな声を出してしまった。


「夫婦になったんだから、敬語はともかく名字で呼ぶのは変だろ」


もっともな意見だ。
結局、すみれの敬語はそのままになっている。何度も敬語をやめようとしたが、どうしても上手く話せず……。見兼ねた彼が、『そのままでいい』と言ってくれたのだ。


名前に関しては、ずっと『御門さん』だった。
婚約披露パーティーや結婚式など、人前では『慧さん』と呼んでいるけれど……。ふたりきりのときは、名字のままだったのだ。

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