政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
ラウンジに着いて三十分が過ぎた頃、彼に促されて地下駐車場に戻った。


「欲しいものは決まったか?」


車に乗り込んですぐ、当然の疑問が投げかけられる。


「それが……」


一晩考えたが、特になにも浮かばなかった。


生活費は、慧がすべて出してくれている。すみれは自分の給料は全額貯金できるようになり、独身時代よりも裕福な生活をさせてもらっていた。


衣食住は保証されていて、必要なものもない。ジュエリーにはあまり興味がなく、今持っているものでも充分だ。
今後、パーティーなどがあればあつらえるかもしれないが、現状は必要なかった。


服、靴、バッグ、ジュエリー……と、思いつく限り考えた。けれど、結局はピンと来るものはなかったのだ。


「だったら、適当に見て回るか」
「あの……」


すみれがおずおずと口を開くと、彼がすみれを見た。


「私なら、こうして慧さんが時間を作ってくださっただけで充分です。慧さんと一緒に過ごせるだけで嬉しいので、プレゼントはいりません」


婚約披露パーティーや結婚式では、ドレスも小物もとてつもなく高額だった。オーダーメイドなのだから、当然だろう。


あれだけの贅沢をさせてもらったのに、もっと……なんて思えない。すみれは笑顔で断ったが、慧は納得していない様子だった。


「なんでもいいから言ってくれ」
「そう言われても、本当になにも浮かばなくて……」
「服でも靴でもバッグでも……ジュエリーだって、別にいくつあってもいいだろ」
「確かにそうかもしれませんが、私は今持っているもので充分ですから」


ささやかな攻防が続き、彼が眉を寄せて嘆息する。


せっかく時間を作ってくれたことは嬉しい。慧なりに、夫としての務めを果たそうとしてくれているのも伝わってくる。


それであれば、なんでもいいからリクエストするべきなのだろうか。困ったすみれは、しばらく黙り込んだあとでハッとした。

< 56 / 204 >

この作品をシェア

pagetop