政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「確かにそうですけど、試着にも時間がかかりますし……」


誕生日プレゼントとはいえ、すみれはひとつだけ……という想像をしていた。多くても、せいぜいふたつか三つまで。
けれど、慧の様子を見ていると、その何倍も買おうとしているように思えた。


「それもそうか。じゃあ、一度試着しよう」


納得してくれ、すみれは密かにホッとする。今度は女性スタッフに案内され、フィッティングルームに向かった。


さすがはラグジュアリーブランドと言うべきか。ただの試着室のはずが、ドアの向こうはワンルームの部屋のようだった。


二人掛けのソファに、コーヒーとチョコレートが準備されたサイドテーブル。その奥が大きなカーテンで仕切られ、傍らにはハンガーラックがある。
試着室全体が、爽やかなシトラスの香りに包まれていた。


(一、二……服だけで十二着もあるよ……!)


すみれは目視でハンガーを数えたあと、ギョッとする。ハンガーラックの横にあるガラステーブルには、靴が七足とバッグが六点置かれていた。


「奥様はこちらへどうぞ。お履き物はそちらのマットの上でお脱ぎください」


カーテンの傍に、毛足の長い黒いラグがある。すみれがそこに行って靴を脱ぐと、スタッフがカーテンを閉めた。


(これ、本当に全部着るのかな……)


この量、そして普段以上に丁寧に扱うことを考えると、三十分程度はかかるだろう。


かと言って、今さら『一着で……』などと言えるわけもない。すみれは覚悟を決め、最初のハンガーを手に取った。


一着目は、くすみパープルの花柄プリントのワンピース。ウエストにダーツとタックが入っており、リボンを結ぶ。くるりと回ってみると、裾が軽やかに広がった。


身体のラインに沿った、すっきりとしたシルエットが美しい。それなのに、着心地にはゆとりがあり、上品でありつつ動きやすい。


慧に見せるのが恥ずかしいが、見せないわけにもいかない。すみれは意を決し、そろりとカーテンを開けた。


「どう、でしょうか……?」


コーヒーカップを片手にした彼が顔を上げ、すみれをじっと見つめる。

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