政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
十九時を過ぎた頃、すみれたちは銀座のレストランの個室にいた。


慧と落ち合ったのが十四時。ホテルのラウンジで休憩し、最初の店に入ったのが十五時過ぎ。つまり、三時間半ほど買い物をしていたのだ。


荷物は車のトランクに入り切らず、後部座席も占領している。すみれにとっては、数年分の買い物だったかもしれない。
彼とは住む世界が違うのだと、まざまざと思い知らされた。


極めつきにエスコートされたのは、老舗レストランだ。
鉄板焼きのコースが楽しめるのだが、カウンター席しかない。しかも、今夜は貸切でシェフが常についてくれ、特別なメニューが用意されているのだという。


本店でもあるこの店は、東京駅のすぐ近くにも別館と称された店舗がある。どちらも人気で、本店は一見の予約は取れない。


今日の予定は突然決まったというのに、いったいどんな手を使ったのか……。疑問に思ったが、すみれは訊けなかった。


「すみれ、少し遅れたが、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」


ノンアルコールのシャンパンで乾杯をする。


「お待たせいたしました。前菜の〝歓迎の逸品〟になります」


グラスから口を離すと、目の前に白いプレートが置かれた。
小さなレンゲに、白くてもこもことしたものが載っている。はちみつ色のソースがかかった表面は炙られているようで、軽く焦げ目がつけられていた。


「ウニといくらのスフレ巻きです。こちらはウニといくらを卵白で作ったスフレで包んでおりますので、スプーンで一口で召し上がってください」


見聞きしたこともない美しい料理に、目を見張ってしまう。言われた通りに一口で食べると、口腔に海鮮と出汁のような旨みが広がった。


「おいしい……!」


思わず、感嘆の声を出してしまう。すみれはハッとして右側を見たが、慧は瞳を緩めているだけだった。

< 62 / 204 >

この作品をシェア

pagetop