政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「それは本人に訊かないとわからないよ。話しにくい内容だと思うし、すみれと慧さんは恋愛結婚とは違うから訊きづらいと思うけど……」


美弥の指摘はもっともで、すみれも重々わかっている。しかし、彼女の言う通り話しづらいのだ。


すみれがなにも言えずにいると、美弥が小さく嘆息した。


「じゃあ、もうひとりの婚約者候補だった真ちゃんと結婚した方がよかった?」
「そんな風に思ったことはないよ!」


すかさず答えると、彼女が苦笑いで頬杖をついた。どこか呆れたようでいて優しさも感じる眼差しを前に、すみれは眉を下げてこぶしを握った。


「でも……ちょっとだけ思ったことはあるかも……」
「真ちゃんと結婚した方がよかった、って?」
「そうじゃないけど……。真ちゃんと結婚してたら、こんな風にはならなかったのかな、って」


別の道を選んでいた自分を、まったく想像してこなかったわけではない。無意味だとわかっていても、考えてしまうことはあった。


「たらればを言い出したらキリがないよ」
「わかってるの……」


美弥の言葉は、痛いほど理解している。今さら、後戻りはできない。


なによりも、慧との結婚を望んだのはすみれ自身だ。
それでも、感情がついてこない。家の中では彼に指一本触れてもらえないことがすみれを不安にさせ、心を蝕んでいくのだ。


「六条のために離婚なんてするわけにはいかないけど、その方がお互いのためにいいのかもしれないって思っちゃって……」


彼女は、なにも言わなかった。まるで、これがすみれの心の底からの本音ではないことを知っているかのように……。


沈黙が降りて程なく、リビングのドアが静かに開いた。部屋に入ってきたのは慧で、すみれも美弥も弾かれたように立ち上がる。


「どうしたんですか!?」


時刻は十六時半。彼は今夜も会食があると言っていたし、今までこんな時間に帰宅したことはない。
話を聞かれたかもしれないという不安もあり、すみれは動揺を隠せなかった。

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