政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「必要なものがあって取りに帰ってきただけだ。久住さん、いらっしゃい」


端的に答えた慧が、美弥に微笑を向ける。それは普段外で見せる表情で、友好的な雰囲気が覗いていた。


「お邪魔しています。ご不在のときにすみません」
「いえ、すみれはあなたが来てくださるのを楽しみにしてましたから。ゆっくりしていってください」
「ありがとうございます」


慧は会釈をしたあとで、すみれに「行ってくる」と告げる。


「いってらっしゃい。お気をつけて」


すみれはなんとかそう返したが、彼がいなくなったあとで一気に脱力した。
心臓がバクバクと鳴っている。不安と緊張に苛まれ、血の気が引いた。


「さっきの話、聞かれたかな……」
「そんな感じはしなかったけど」


彼女の言葉に一瞬ホッとしたが、心から安堵することはできない。


「話が聞こえてたなら、さすがにあんなにサラッと出掛けないでしょ? 動揺したような様子もなかったし、きっと聞こえてなかったんじゃないかな。それに、もし聞かれてたなら話をするチャンスだと思えば?」


動揺したままのすみれに反し、美弥があっけらかんと言ってのけた。


「どうせ、このままでいるわけにはいかないでしょ? だったら、今すぐには無理でもいずれは覚悟を決めて話さなきゃ」


真剣な表情で見つめられ、すみれは力なく椅子に腰かける。


「そう、だよね……」


彼女の言う通りだ。
この結婚には、後継ぎ問題も絡んでいる。今は大丈夫でも、そのうち周囲から突っつかれるだろう。


遅かれ早かれ、避けては通れない。頭ではそうわかっているけれど、今はまだ話し合う勇気がなかった。

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