政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「慧さん……!?」


無言で歩き出した慧は、リビングを出て彼の自室に向かう。ドアは半開きのまま、クイーンサイズのベッドに勢いよく座らされた。


すみれはバランスを崩しそうになったが、咄嗟に手をついて倒れずに耐える。そんなすみれを見下ろす慧の表情は、まるで温度を忘れたようだった。


「悪いが、それはできない」
「えっ……?」


状況を呑み込めていないすみれは、一瞬なにを言われているのかわからなかった。少し遅れて、さきほどの話の続きだと察する。


(とにかく、説明しないと……。でも、どう言えば……)


「君のペースに合わせるつもりだったが……」


グルグルと思考が巡る中、冷たい声が落ちてきて……。

「こんなことなら、さっさと後継ぎを作った方がよかったか」

彼がベッドに右膝を乗せ、すみれの肩を押してゆっくりと身体を倒してきた。


スローモーションの映像のように、すみれの視界が慧を映したまま動く。気づけば、すみれの目の前には彼の顔があり、その後ろには天井が見えた。
次いで自分の置かれた状況を把握し、すみれの鼓動がドキリと跳ね上がった。


怖い……とは、たぶん少しだけ違う。
けれど、真意の読めない慧の双眸がいっそう冷たく感じ、すみれに不安を与えた。


初めて組み敷かれていることに戸惑い、頭が働かない。重い空気が、すみれを責めているようだった。


「そうすれば……」


そこまで言いかけた慧が口を閉じ、息を小さく吐く。彼は目を伏せ、ゆっくりと端整な顔を近づけてきた。


直後、慧によってすみれの唇が奪われる。


キスをしたのは結婚式で、一度だけ。それも、頬に触れるだけのものだった。
唇へのキスは初めてで、すみれにとってはファーストキスでもある。


二秒ほどで彼が離れると、すみれの唇がひんやりとした感覚に包まれた。まるで、自分たちの夫婦関係のように……。

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