政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「慧さ――」
「黙って」


ぴしゃりと制され、すみれは声を出せなくなる。声音から滲み出る静かな怒りに、すみれの肩が小さく強張った。


それなのに、眉をひそめている慧が今にも泣きそうに見えるなんて……。そんなものは錯覚だとわかっているが、彼がこんな顔をする理由が知りたい。


しかし、それは叶わなかった。
二度目のキスがすぐに訪れ、すみれの唇が冷たい感触に塞がれたからだ。


唇を力強く押しつけられた口づけには、甘さも優しさもない。愛などない、と言わんばかりだった。


一方で、すみれの頬に添えられた骨ばった手からは、どこか優しさを感じる。
思い上がりだとわかっているが、期待してしまいそうになる。もしかしたら、慧も自分を好きなのではないか……と。


そんなことはありえない。わかっているのに、単純な心が勝手にドキドキした。


再び唇が離れ、間を置かずしてまた重ねられる。彼は、微かに開いていたすみれの唇の隙間から、自身の舌を差し込んできた。


温かい塊が入ってきたことに驚いたすみれは、舌を引っ込めようとしてしまう。けれど、一瞬早く舌を捕らえられた。


「んっ……!」


舌先をくすぐられ、側面をゆっくりとなぞられていく。表面や裏側もくまなくねぶられると、すみれの背筋がゾクゾクと粟立った。


初めて知った感覚は、なんとも形容しがたい。気持ちいいわけではなく、かと言って気持ち悪いとも違った。


慧の舌は、すみれの舌の形を無遠慮に確かめるように動いている。それでいて、どこか優しさも感じられた。


戸惑いはどんどん大きくなるのに、拒絶できない。
すみれにとって、彼はずっと好きだった人。


たとえ形だけであっても、慧の妻になれたことが嬉しかったのに……。愛のない結婚は誤解とすれ違いばかりで、肌に触れられもしないまま今日まで来た。


それが一転、今はベッドに組み敷かれている。目の前にある現実がまやかしであっても、ようやく夫婦らしくなれるかもしれない……と期待が芽生えた。
彼の心は手に入らなくても、女性として見てもらえることに喜んでしまったのだ。

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