政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
出会いは、あるパーティーの夜。


主催者の身内の男に絡まれていたすみれを、偶然見かけた。そのとき、相手の目に余る態度を見兼ね、助け船を出したのだ。


ただの気まぐれだった。彼女に興味があったわけでもない。


むしろ、女性とはしっかりと一線を引いていた。しつこく言い寄られることやストーカーに遭ったこともあり、辟易していたから。


恋愛経験自体はあるが、特に夢中になったことはない。
慧の恋愛は、まるでビジネスのスケジュールをこなすような感覚で……。熱くも夢中にもなれないまま、いくつかの関係を終わらせてきた。


恋愛はもちろん、結婚にもたいした興味がない。御門家の長男でなければ、一生独身でもよかったのに……と思ったこともあったくらいだった。


ところが、すみれとの出会いが慧の心を一瞬で変えたのだ。


あの夜、彼女とホテルの庭園の一角にあるローズガーデンで肩を並べた。
最初は、適当に放っておくつもりだったのに……。顔色が悪い上にまた変な男に絡まれそうに見え、放っておけなかった。


六条の娘と言えば、陰で『高嶺の蕾』と呼ばれている。知っているのは、そんなことくらい。


慧にとっては、気にかける理由もない。いつもならそう思い、助け船も出さなかっただろう。


けれど、どうしてかあの日は声をかけていた。やけに不安げな瞳で困っているすみれが視界に入ってきたときから、気になっていたのだ。


それまで、彼女とは話したこともなかった。パーティーで見かけたのも、ほんの数回だったはずだ。


すみれは美しい容姿に似合わず、いつも不安そうだった。自信なさげに微笑みながらもどこか諦めたような目をしていて、明るい笑顔は見たことがない。
そんな印象を持っていた。


『こういう場は苦手で……。六条の娘がこんなことでは、みなさんから呆れられていると思います』


そう言った彼女の自嘲交じりの笑みには、まさに慧が持っていた印象を強くした。


親しくもない相手のことなど、どうでもいい。いつもならそう思っただろう。
けれど、このときには自然と口を開いていた。

< 88 / 204 >

この作品をシェア

pagetop